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大宮アルディージャ昇格の軌跡

2014年、J1では毎年のように残留争いに巻き込まれ、その「残留力」で話題となってきた大宮アルディージャがJ2に降格。J1からJ2に落ちたチームの中には、なかなかJ1に上がれずにもがき苦しむ所が多いが、見事1年での復帰を果たした。その激動の1年間を振り返る。



まず、優勝の要因の1つとしては戦力の維持が挙げられる。これまでの大宮は常に外国人助っ人を前線に並べてきたが、フィットしないこともしばしば。2006年のマルティネス、2007年にはエニウトン、サーレス、ペドロジュニオール。2014年にもラドンチッチが機能せず出遅れた。


そんな中、今シーズンは新外国人の補強は0。高橋、橋本、ズラタンと、レギュラー格の3人は移籍してしまったが、河本、横谷などの獲得で、戦力の低下は最低限に抑えることに成功。また、往年の課題であったゴールキーパーは、渋谷監督の意向もあり、足元の技術に定評のある加藤、ベテランの塩田と、J1クラスの選手を2人も獲得。全体的に見ると選手層は若干薄いものの、J2で戦うには十分すぎるメンバーが揃った。



しかし、開幕前にNACK5スタジアムで行われた練習試合では、今シーズンJ3へ降格した栃木に0-2で敗戦。多少の不安はあったが、大きな期待を抱いて、大宮アルディージャのJ2での戦いが幕を開けた。




苦しんだシーズン序盤ー第1節~第7節ー



開幕戦の相手はJ3から昇格してきたツエーゲン金沢。キャプテンの菊地を欠いたものの、ほぼベストメンバーの布陣。GKは加藤、DFは右から今井、横山、河本、和田。カルリーニョスと金澤がダブルボランチを組み、2列目には家長と横谷。2トップはムルジャと富山のコンビがスタメンとして開幕戦のピッチに立った。試合を通して苦しんだが、後半41分に挙げた家長の値千金のゴールを守り切り1-0での勝利。最低限の結果で開幕戦を飾った。



しかし、ここで予想外のアクシデントが発生。攻撃陣の柱として絶大な信頼を置かれている家長、ムルジャが同時に離脱してしまう。その影響は予想以上に大きかった。第2節のC大阪戦では終了間際にFKを決められ、今シーズン初黒星。続く京都戦では河本の劇的なゴールで勝利を手にするも、すっきりしない試合が続く。岡山、札幌には引き分け、千葉にはアウェーで0-2の完敗。開幕7試合で3勝2分2敗と、昇格を狙うチームにとっては厳しい船出となった。

苦しい序盤戦でチームを引っ張った河本 Photo by Getty Images
苦しい序盤戦でチームを引っ張った河本 Photo by Getty Images




得点力不足は特に深刻で7試合で7ゴールと、1試合に1点ペースだ。そのうち5点はセットプレーから奪ったものであり、流れの中からの得点は開幕戦のゴールと第6節でムルジャが相手ディフェンスラインのミスを突いて決めた2本しかない。その原因の1つは日本人FWのアピール不足。ムルジャ不在の間、富山、清水慎の若手2人がスタメン出場の機会を得たが、それぞれ無得点と結果を残すことが出来なかった。第6節にムルジャが復帰し得点を挙げると、富山は出場機会が減少。前線にけが人が続出する中で4-4-2と4-2-3-1のフォーメーションを試すなど、試行錯誤を繰り返しながらの序盤戦となった。





ただ、この序盤戦で大崩れしなかったのは後から考えるとかなり大きい。特に高いパフォーマンスを見せたのはGKの加藤。第3節では開始早々のPKをストップすると、第6節の熊本戦でも前半に与えた幾多ものピンチを次々に防いだ。どちらも後半に挙げた得点で勝利しただけに、彼のセーブがチームに流れを与えたと言えるだろう。逆にここで失点をしていたら優勝は成し遂げられなかったといっても過言ではない。




連勝街道となった中盤戦ー第8節~第28節ー



流れの悪かった序盤戦の中、第6節でムルジャが、第7節で家長がそれぞれ怪我からの復帰を果たす。チームの流れが変わったのは第8節のアウェー大分戦だった。前半で10人になった大分に対して優位に試合を進めるが、前半44分にPKを与えてしまう。試合の流れに暗雲が立ち込めるが、このPKを加藤がまたも素晴らしい反応でストップし、絶体絶命のピンチを切り抜ける。これに奮起した攻撃陣が後半に爆発。エースムルジャの2ゴールなどもあり、3-0で勝利。続く水戸戦でも途中出場の渡邉が決勝ゴールを奪い、今シーズン初の2連勝を達成。順位も5位まで上昇した。




11節の愛媛戦では、大卒2年目の泉澤がプロ初ゴールを記録し、1-0で勝利。さらに12節北九州戦でも、今シーズン初先発となった播戸が移籍後初ゴールを決め、2-0の快勝。ここまで満足な結果を残せてこなかった2人を中心に、課題だった得点力不足が改善される。15節の岐阜戦では前半で4点を奪うなど、今シーズン最多の5得点で大勝。これに影響されるように、清水慎も続く福岡戦でロスタイムに決勝ゴールを挙げ、攻撃陣のポジション争いは活性化。この間は怪我を抱えながらのプレーとなったムルジャをスーパーサブとして起用していたが、これが奏功した。後半に試合を決めるゴールが増えたのも、相手の疲れた時間帯に投入されるムルジャがスペースへの飛び出しを効果的に行ったことが影響している。

2年目の泉澤は他チームとの争奪戦を制して獲得した期待の選手だ Photo by Getty Images
2年目の泉澤は他チームとの争奪戦を制して獲得した期待の選手だ Photo by Getty Images



8節から19節の12試合で挙げたゴールは25。さらに守備の安定感も試合を重ねるごとに増し、12試合で僅か2失点に抑える。盤石の戦いで勝ち点を重ねていったアルディージャは第16節終了時点で遂に首位に立った。




22節の札幌との試合は、前半に2点を先制される苦しい試合となったが、家長、横谷、和田の得点で大逆転勝利。その試合でセンターバックの菊地が負傷するも、代役となった福田が穴を完全に埋める活躍を見せた。ムルジャの代役となっている播戸もその後の福岡戦でハットトリックの活躍を見せるなど、好調を維持。シュート精度が課題だった泉澤も初ゴール後はカットインから得点を量産する。元々、一瞬のスピードで縦へ突破するプレーが得意なだけに、プレーの幅が大きく広がり、大宮の攻撃の脅威となった。





その後、岐阜に再び5-0で勝利するなど、21節~28節の間で8連勝を達成。27節、28節では相手に押し込まれる展開となったが、粘り強い戦いで勝利をもぎ取った。首位を独走するアルディージャは昇格はおろか、優勝確実とまで言われていた。


独走態勢から一転、苦しんだ終盤戦ー第29節~第42節ー




菊地の穴を埋めていた福田も負傷し、怪我明けの菊地と片岡の急造センターバックコンビで迎えた第29節愛媛戦。相手の素早いカウンターに対応しきれずまさかの3失点で久しぶりの敗戦となった。幸い、その後の相手は群馬、水戸と下位チームが続くだけになんとか流れを断ち切りたかったが、家長の出場停止も影響し、群馬とは引き分け、水戸には0-1の完封負け。さらに続くC大阪戦で、今シーズン初の連敗を喫する。これまでは安定した守備からの攻撃で先制点を取り、優位に試合を進めることが多かったが、怪我人の影響からか守備に綻びが見え始めた。先制される試合が増え、引いた相手を崩しきれない試合が続く。


そんな中迎えた昇格争いのライバル、東京V、千葉、磐田の3連戦。下からは2位、3位のチームが猛烈な追い上げを見せているだけに、ここで連敗が続くようなことがあると、再び昇格争いに引き戻されてしまう。


まずは第33節東京V戦。この試合も家長を出場停止で欠いた大宮だったが前半に多くのチャンスを作る。しかし、ムルジャのPKは相手キーパーに止められ、横谷のFKもライン上にでクリアされるなど、ある意味連敗中のチームらしい、決定機をモノにできない展開が続く。すると後半は東京Vペースに。高木やブルーノコウチーニョに決定的なシュートを打たれるも、今シーズン初出場となった塩田のビッグセーブで得点を許さない。試合はオープンな展開になり、両チームにチャンスが。そして86分、遂に待望の瞬間が訪れる。右サイドで片岡のパスを受け、切り返しから左足でゴールを決めたのは富山。序盤戦以降、出場機会のなかった男の貴重な一撃で先制ゴールを奪う。その後は攻め込まれるも、相手の攻撃を抑え、東京Vを撃破。苦しいチーム状況の中で勝ち点3を手にしたこの試合は、今シーズンのベストゲームの一つだ。




続く34節千葉戦では前節の勢いそのままに、横谷のスルーパスに抜け出したムルジャが先制ゴール。さらに、後半開始早々には家長のシュートのこぼれ球を左サイドバックの和田が押し込み、試合を優位に進める。その後1点返されるも、リードを守備陣が耐え抜いた。7試合ぶりの複数得点を挙げるなど、ここにきて復調気味のチームはこの逆境で2連勝を飾った。


チーム得点王のムルジャ Photo by Getty Images
チーム得点王のムルジャ Photo by Getty Images


久しぶりの連勝で迎えた第35節磐田戦。またもや苦しい戦いが待っていた。前半20分で2点のリードを許し、ハーフタイムを迎える。敗れれば2位・磐田との勝ち点差が詰まるだけにこのままでは終われないアルディージャ。70分に家長がカルリーニョスとのワンツーから素晴らしいボレーシュートを叩き込んで一点差に迫ると、81分にはカウンターからムルジャが落ち着いてループシュートを決める。首位の意地を見せ、なんとか引き分けに持ち込んだ。試合後、選手が口々に「勝ちに等しい引き分け」と語ったように、磐田との勝ち点差が縮まなかったことは今考えるとかなり大きかった。





上位チームとの3連戦で勝ち点7と十分な結果を残し、このまま優勝まで突き進んで行きたいところだったが、続く熊本戦で再び守備が崩壊。0-3で敗れると、ホームでの徳島戦でも片岡の挙げたゴールを守りきれず、2点を奪われ逆転負け。熾烈を極めるプレーオフ争いを繰り広げるチームに圧倒され、チームはまたも調子を落とす。



それでも、なんとか勝ち点を積み重ねる。第38節の京都にも2度のリードを奪われる展開ながら、ムルジャと家長が個人技で得点を奪って引き分けに持ち込むと、39節長崎戦では渡部が1ゴール1アシストの大活躍で勝利に貢献。昇格の決まる可能性のあったアウェーでの讃岐との試合は互いに昇格、残留をかけた熱い戦いとなったが、リードを守りきれず勝ちきれない。その間2位・磐田は4連勝、3位・福岡は6連勝を挙げ、自動昇格を逃す可能性さえ出てきた。しかし、ホーム最終戦の第41節大分戦で勝利すれば昇格、磐田の結果によっては優勝が決定する。1年間応援、サポートをしてくれた大勢のサポーターの前でJ1への切符を掴み取りたい選手達は、聖地・NACK5で奇跡を起こす。



直前の試合で磐田が引き分けた為、勝てば優勝となるアルディージャは前半から攻勢を見せる。だが、大一番の重圧からか、ポストに嫌われるなど決定機を生かせない。すると後半開始早々、相手シュートを弾いたボールが大屋に当たりオウンゴール。さらに直後のCKを若狭にニアでフリックされると、これが渡部の頭に当たって失点。不運も重なり、まさかの2点ビハインドを背負う。スタジアム全体が不安で包まれる中、状況を一変させたのはチーム得点王のエース・ムルジャだった。右からのクロスをトラップして放ったシュートは、DFの股を抜けゴール隅へ突き刺さる。「1点返せばいけると思った。」と渡部が語るように、キーパーが1歩も動けない完璧なシュートで試合の流れは大きく変わる。81分、左サイドを突破した大屋のシュートは、ポストに当たって弾かれるもこぼれ球を再びムルジャが押し込み遂に同点に。さらに87分、ムルジャが右サイドからPAに侵入し仕掛けると、ディフェンスが堪らずファールを犯しPKを獲得。プレッシャーのかかる場面ながら、家長が確実に決め、大逆転に成功。そしてサポーターの「無敵大宮」コールが流れる中タイムアップの笛、すなわち優勝を決めたアルディージャ。1年間の苦しい苦しいJ2での戦いを戦い終えた選手達の目には、嬉しさと安堵感の入り交じった涙が溢れた。




決して順風満帆な1年ではなかったが、ベンチメンバーの活躍も目立った今シーズン。清水慎、塩田、富山、播戸、福田、大山などの選手は与えられた出場機会で重要な活躍を見せた。もちろん彼らにとっては満足のいかないシーズンとなったが、サブの選手の突き上げなしに、チームは成長しない。


また、怪我の影響もあったが、メンバーを上手く入れ替えてモチベーションを保たせた渋谷監督の手腕も評価されるべきものだ。

渋谷監督は就任2年目 Photo by Getty Images
渋谷監督は就任2年目 Photo by Getty Images


J1での戦いに向けて




まず着手すべき点はシーズン終盤にかけて不安定になった守備面だ。過去のJ1での成績を見ていくと、年間で60失点、1試合平均1.7失点の喫したチームはほとんどが降格している。今シーズン最後の13試合でアルディージャの失点数は22。平均失点は約1.7。つまりこの守備力だと数字上、J1では厳しいことが予想される。



大宮の外国人センターバックの歴史と照らし合わせてみよう。堅守と言われていた時代は、常にディフェンスラインにトニーニョ、レアンドロ、マトといった外国人が存在していた。菊地も勿論実力者ではあるが、シーズン終盤のディフェンスの脆さを見ていると、外国人ではなくとも、センターバックは補強ポイントの一つではないだろうか。




ただ、そんな中で現在名前が挙がっているのは鹿島のフォワード・ダヴィ。獲得すれば脅威になるのは確実だが、大宮のサッカー、フォーメーションに適応するかどうかは不透明だ。



今シーズンは使わなかったアジア枠を埋める選手としては、元大宮のチョヨンチョルの復帰が噂されている。兵役の関係で長期間の在籍は不可能だが、J1を知り尽くした彼の経験はチームにプラスに働くはずだ。また、浦和レッズの青木の復帰も耳に挟む。レギュラークラスの選手の加入はもちろん重要だが、チームを大きく変えることの裏に孕んでいる危険性は、長く大宮に携わる渋谷監督にはわかっているだろう。



しかし、昇格1年目にどこまで戦えるかというのは非常に重要だ。もし1年で降格してしまうようなことがあると、現戦力の流出は避けられるはずがない。



個人的には各ポジションに2人ずつ補強して欲しい。ここでは、現チームで出場機会を失っている選手の中から選出してみる。層の薄い両サイドバックにはFC東京の松田陸や横浜FMの奈良輪。センターバックとしては横浜FMの栗原、柏の近藤だろうか。攻撃的MFでは甲府の堀米、清水の澤田などは面白い存在だ。FWには先日戦力外となった名古屋の田中輝や川崎の船山などが挙げられる。もちろん、現実的な話ではないが、J1での戦いに備えるには頭数を増やす必要がある。

Photo by Getty Images
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来年、アルディージャが本来居るべき場所に戻ってくる。残留争いはもう十分。歴史を大きく変える時は今だ。

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コメントコメント

山本 衆平

山本 衆平 

来年が楽しみです。レイソル、ガンバのようになれるか。

下田朝陽

下田朝陽 

山本衆平さんコメントありがとうございます。彼ら程独走した優勝ではありませんでしたが、J1での上位争いはサポとしては是非見たいですね!

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