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柿谷曜一朗の得点は試合前から約束されていた~柿谷とキム・ジンヒョンとの対話~

GKキムの発言を聞き逃さなかった柿谷


「このグラウンドは、なんか小さく見えるな」と、試合前のウォーミングアップの際にキム・ジョンヒョンが呟く。
その言葉を耳にした柿谷曜一朗は、「小さく見えるんや」と心の中でキムの言葉を繰り返す。

「今日は蹴れそうやわ。風にも乗ってくからな」
大きな声でキムが話した先には、柿谷がいる。キムは、この日のように風が強いときに、ゴールキーパーがどんなフィードを蹴るのかを、柿谷に暗黙のうちに知らせていたのだ。

春の暖かさを感じさせるケーズデンキスタジアム水戸には、ホーム開幕戦を心待ちにした10420人が駆けつける。3月6日J2リーグ第2節水戸ホーリーホック対セレッソ大阪の試合が幕を明けた。

油断した水戸の選手とチャンスを見逃さない2人


前半のロスタイムを迎える。MFロメロ・フランクがペナルティエリアに入ってきたFW三島康平へパスを送る。三島は相手ディフェンダーを背負ってボールをキープして、ペナルティエリアに侵入したフランクにパスを出す。フランクは思いっきり蹴り上げて、ボールはバーの上を遥かに越えていく。

ここで水戸の選手たちは、一息ついてしまう。
スパイクを気にする選手。
息を切らしてゆっくりと歩きながら自分のポジションに戻ろうとする選手。
顔を下に向けながらフランクのシュートを残念がる選手。
「あと数秒で、前半が終了する」。おそらく、水戸のほとんどの選手がそう感じていたのだろう。しかし、そうした水戸の選手の動きを、ひとつの「油断」と捉え、絶好のチャンスだと考えていた選手がC大阪には2人いたのだ。それが、GKのキムとMFの柿谷である。柿谷はすぐに水戸のDFの裏にポジションを取ろうとする。キムは、柿谷の動きを察知して、「自分にボールをよこせ」と急いで要求する。そして、大きな弾道で力強く蹴られたボールは、水戸のDFを越えた地点に落下した。柿谷は、ボールに触れないで勢いを活かしながら、シュートができるポジションを取って、ダイレクトでゴールの枠内に蹴り込む。

柿谷は、決勝点となったこの先制の場面を振り返る。
「(キムが)蹴った瞬間に『全部越えてくるな』という蹴り方だった。球の勢いもあったし」と話す。

キムによる計算されつくされたフィード


キムは、GKとしてのサッカーIQがとても高い。この試合、前半戦はセレッソが風上に位置する。つまり、キムの背後から風が吹いて水戸の側に流れていく。試合開始前から風の流れを読んで、どのようなキックが有効になるのかを味方選手に示していた。

特に、キムのサッカー選手としての卓越さは、どれほどの強さで蹴れば、ボールがどの地点まで届くのかを、試合中のフィードで試していたのだ。それは、キムのキックの強さや角度が、状況によって変えられていて、前半早々にも得点場面に似たようなキックを蹴っていたからだ。

逆に、後半になってC大阪が風下になったとき、ロングフィードを蹴らないように務めていた。前半に水戸のGK本間幸司がキックしたボールが、風に流されてアウトボールになる。さらに、自陣に押し戻されてセンターラインを越えずに相手ボールになる場面が何度かあった。そうした状況ならば、DFの1人が下りてきてボールをもらいにくるやり方をとってもいい。水戸にとっては、GKのキックが無駄に相手に渡たるくらいなら、状況に応じて対処してほしい試合でもあった。

柿谷らしさの受け答えと、過酷なJ2の戦いを見据えて


26歳になった柿谷は、スイスのバーゼルで苦渋を舐めてきた。今季、日本のJリーグに復帰して、キャプテンマークを巻くことになった彼は、自分の主張と意見を、全体を捉えながらはっきり述べる選手になっている。

試合後に記者が柿谷を囲んで話を聞いていく中で、柿谷は質問した記者に顔を向けながら受け答えする。一人の記者が、「チームも勝って、柿谷選手自身も決めて……」と話をはじめると、柿谷は彼の言葉をさえぎって答えだす。

「まあ、他に決められるシーンがあったから。惜しいシーンじゃなくて、しっかり決め切れるシーンをもっと作れればよかったな、と。チームとしても、僕だけじゃなく、決めるところで決めないと。最後になって、何かアクシデントがあって失点してしまった場合に、もったいない試合をしてしまう場合があるから。そこはチームの課題だと思う」。

――サポーターも待ち望んでいた(得点だった)と思うんですけど。
「1点決めてOKだとは思わないし。これからたくさん試合がある中で、たくさんの勝ちというのを(サポーターは)見たいやろうし。その中で得点を取れればいいですけど、ただ単に、(今日で)2勝したにすぎない。これから勝ち試合をファンのみんなと共有できたらいないと思います」。

――連動性とかよくなっていると思うんですが。
「試合を重ねるごとに、よくはなると思うんですが、試合を重ねるごとに悪くなる部分も出てくるだろうし。いいところはもっと伸ばしてね。悪いところは試合であんまりでないようにすることが大事だと思いますけど。まず、アウェー2連戦で体もみんな疲れていると思うので、しっかり休んで、ホーム開幕に向けて最高のコンディションで迎えたいと思います」。

短い質問に対して、的確に自分の考えを主張して、思っていることを話す姿は、柿谷も年齢を重ねて大人になっているんだと思わせた。「ただ単に、2勝したにすぎない」と言い放った柿谷は、関係者入り口から足早に出て行き、選手たちを待つバスの中に乗り込んだ。

(了)

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