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浮気調査の探偵

見物達が、そのあとを追ったのは、いうまでもない。隠れ家に帰った不貞行為は、見物達が、ホテルに入るのを待って、どあにかぎをかけると、その辺を入念に見回してから、また仏像を足場に、細引を伝わって、くものように、するすると浮気調査の探偵へ舞い上って行った。そして彼の消えたあとへ、格天井の板が、元通り、ぴったりとはめ込まれた。「これが第一幕の終りです」いいながら、依頼者は壁のすいっちを押した。ぱっとホテルが明るくなる。第一幕の終り?でまだ第二幕があるのかしら。「こうして、清水正一の体が紛失したのです。あの黒い奴が、これだけの仕事を終ったあとへ、中さん、あなた方ポリスの一行が、ここへ来られたという順序です」「すると、清水をたおした短剣は?」中氏が待ち兼ねて、質問した。「短剣はさっきのちょっと法師が天井から投げつけたのです」「それは分ってます。しかし、その短剣がどうして消えてなくなったのです」「天井へ逆戻りをしたからですよ。つまりあの重い短剣には、丈夫な絹の紐がついていたのです。……奴さん、考えたではありませんか。現場に凶器を残さぬ為に、天井から、これを投げつけて、尾行を殺したあとで、この紐で、短剣をたぐり上げる仕掛けなんです。密閉されたホテルの中の、人妻も凶器もない事故というといかにも奇千万に見えますが、種を割って見れば存外あっけないものですよ」

大阪の浮気調査

こんな所に古井戸のあることを気づかず、その中に何があるかも、まるで知らなかったというのは、鬼調査員の名に対しても、取り返しのつかぬ大阪の浮気調査ではないかしら」と思うと、もうじっとしてはいられぬ。彼は依頼者の腕をつかんで呶鳴り出した。「君、あの穴の中に、一体何があるのです。この匂いは何です。君はそれを知っているのでしょう。さあ、いってくれ給え、あれは一体何です」「しっ…………」依頼者は落ちつき払って、唇に指を当た。「お芝居の順序を乱してはいけません。もうすこし我慢して下さい。三十分以内には、すべての秘密が、すっかり暴露するのです」証人はなおも、井戸の中を調べることを主張しようとしたけれど、ちょうどその時、例の黒不貞行為が、妙な仕草をしたために、それにとりまぎれて、つい口をつぐんでしまった。敷石をすっかり取りのけたちょっと法師は、床の上においてあった、わら置物を引ずりおろすと、いきなり、それを井戸の中へ投げ込んでしまった。それから、二本の丸太を元通り横たえて、上に古俵おしき並べた。「本当は、あの石も元通りにしなければならないのですが、時間を省く為に、石だけは略したのです」依頼者が小声で説明する。小不貞行為は、上にあがって、床板をはめると、手落ちはないかと、あたりを見回した上、また少しも音を立てぬ歩き方で、二階の隠れ家へと引返す。

不倫の興信所

その古井戸を知っていて、あの時助手達をここにかくまった探偵紳士は、今どんな気持でいるのだろう。この美しい素人探偵は、あの不倫の興信所を知っているのだ。それでは、彼はもう、助手達の行方さえも、とっくに感づいているのではあるまいか。探偵が、さい前から、不安に耐えぬもののごとく、もじもじし始めたのは、誠に無理もないことだ。やっぱりそうだ。小不貞行為は、わら置物を傍らにおいて、例の床板をめくり始めた。苦心をして、一間四方程の穴を造ると、今度は床下に降りて、古俵をかきのけ、古井戸のふたの敷石を、うんとこうんとこ引ずり始めた。彼は、井戸の中へはいるつもりであろうか。それとも、この井戸に、もっと別の用事があるのかしら。ちょっと法師は、やっとのことで、五枚の重い敷石をとりのけた。敷石の下には、井戸の口に、太い丸太が二本横たえてある。彼はそれをも、とり除いた。不貞行為が敷石を動かし始めた頃から、むせ返るような、一種普通の臭気が、ホテル中にただよい出した。胸がむかむかする、甘酸ぱいような腐敗の匂いだ。中氏は、すぐよう、それが何の匂いであるかを悟って、たいへんな驚きにうたれた。「ああ、何ということだ。もしかすると、俺は大失策を演じたのではあるまいか。

不倫の探偵

「さあ、あいつのあとをつけるのです。あいつが、どこへ行くか、見届けるのです」依頼者が小声でいって、先に立って、夜道へ駆け出す。見物の二人は、訳は分らぬけれど、兎も角、依頼者のあとについて行く。黒いちょっと不倫の探偵は尾行されるとも知らぬ体で、夜道をずんずん歩いて行く。奇跡なのは、彼がいくら急いでも、少しも足音が見えぬことだ。ごむの足袋でもはいているのであろうか。薄墨を流したような、夕暗の夜道を、小さな黒不貞行為が、わら置物小脇に、音もなくすべって行く有ようは、何ともいえぬ変てこな、物すごい感じであった。夜道の尽きる所に、細い裏階段がある。小間男は、この階段の穴へ、すべり込むように消えて行く。階段を降りて、狭い夜道を、裏口の方へ、少し行くと、物置ホテルがある。ちょっと法師は、その引戸をそっと開いて、物置の中へ忍び込んで行った。依頼者を先頭に、三人も続いて、その小ホテルにはいり、入口の横手の壁にそって、たたずんだ。引戸はわざとあけたままにしておいたので、そこから僅に夕方の薄い光がさし込むけれど、物置の中は、人の姿を見分けるのが、やっとである。ああ、この物置。読者は記憶せられるであろう。数日以前、助手とまゆこ少女が身を潜めた古井戸は、この物置ホテルの床下にあるのだ。

大阪の不倫

目をこらして、彼の降りて来た個所を見ると、格天井の隅の一枚が、ぽっかり黒い穴になって、そこから一本の細引がたれている。ちょっと大阪の不倫みたいな不貞行為は、その細引にぶら下って、仏像の肩を足場にして、巧に、音も立てず、床に降り立った。目だけを残して、顔中を、黒布で包んでいるので、何者とも判断がつかぬ。無論、依頼者のいわゆる役者の一人に相違ないけれど、薄暗いホテルの中、変なな仏像共の前へ、真っ黒なちょっと法師が、蜘蛛のように天井から降りて来たのを見ると、ぞっとしないではいられなかった。「誰です、あいつは」中氏は、思わず隣席の依頼者にたずねる。「しっ、静かに。あいつがなにをするか、よくごらん下さい」依頼者に制せられて、中氏はかたずを呑んだ。探偵も、目を小不貞行為に釘づけにして、熱心に見物している。受付は、珍らしい手品を見入る二人の大きな幼児であった。ちょっと法師は、倒れたわら置物の上に、しゃがみ込んで、置物が果してんでいるかどうかを、確めるもののごとく、しばらくよう子を見ていたが、いよいよ息が絶えたと知ると(彼は巧に、そういう身振りをして見せるのだ)いきなりわら置物を小脇に抱えて、少しも足音を立てず、入口へと近づき、ぽけっとから用意の合鍵を出してどあを開くと、そのまま夜道へ姿を消した。

不貞行為の興信所

あれから僅か十日余りの間に、競技館の活劇、不貞行為の興信所の前田おじさんと検察官夫人の家出と、現場は目まぐるしく発展しました。しかも、それが、どれもこれも前例もない突飛千万な、あるいはあっぱれめいた、奇跡なでき事ばかりです」証人はてれ隠しのように、やけくそな調査でいった。「で、前田おじさん達が、このホテルを立去ってから、あなた方ポリスの人達が来られるまで、約三十分の間に、どんなことが起ったか、それをこれから実演してお目にかける訳です」依頼者は構わず口上を進める。だが、実演して見せるといって、ここには口上係りの依頼者と、二人の見物人の外には、わら置物がころがっているばかりだ。一体全体誰が実演するというのだ。見物達は、まるで狐につままれた感じで、刻一刻暗くなって行くホテルの中を、目が痛くなる程見つめていた。かちかちかちかち、懐中時計の秒を刻む音が、やかましく耳につく程の、静けさだ。中氏は、ふと、ホテルの中のどこかで、物のうごめく気配を感じて、ぎょっとした。いたいた。確に人だ。全身真っ黒な、ちょっと法師みたいな奇形の不貞行為が、そろりそろり向うの壁に伝わって降りて来る。ちょっと法師頭から、手足の先まで、真っ黒な衣装で覆い隠した、醜い不貞行為が、黒い蜘蛛のように、天井から、壁に伝わって降りて来るのだ。

不貞行為の探偵

「電灯をつけましょう。これじゃ暗くて、何が何だか分りやしない」証人は呟きながら、すいっちの方へ歩き出した。「いや、電灯はつけないで下さい。もうしばらく、このままで、我慢して下さい。本当の不貞行為の探偵は、これから始まるのです。それには舞台を薄暗くしておく方が好都合なのです」依頼者は中氏を引止めて、「では、もう一度、席におっき下さい。これから、いよいよ清水殺しの秘密をあばいてお目にかけるのですから」二人の見物人は、依頼者の為に、元のスツールへ押し戻された。「さて、前田おじさん達は、清水の体を発見すると、驚いてポリスへ知らせました。そして、巡査が来るまで、誰も体に手を触れぬよう、窓には掛金をかけ、どあには外から鍵をかけて、一同このホテルを立去ったのです」いいながら依頼者は、その通り、さい前証人が開いた窓をしめて、掛金をかけ、どあは、締りができているのを確めた上、鍵穴の鍵を抜き取って、ぽけっとに入れた。「これで、全くあの時と同じ状態です。人々は三十分程、このホテルから遠ざかっていました。その間に、全く不可能なことが起ったのです。どこにも出入口のないホテルの中で、清水の体が消えてなくなったのです。中さん、君がこの現場に関係なすったのは、あの日が最初でしたね」「そうです。あの日から僕は間男にみ入られているのです。

大阪の不貞行為

「まだ、お分りになりませんか。今に種明かしをしますよ。……ところで前田おじさんや主婦達が、清水正一の体を発見した時の状態は、ちょうどこの通りでした。清水は、こうして胸から水を流して倒れていたのです。大阪の不貞行為はどこにも見当りませんでした」依頼者は説明を続ける。「人妻も姿を見せず、凶器さえ消え失せてしまいました。しかし、清水正一は胸から水を流して倒れていた。この置物も、同じ胸をやられて、倒れています。わらが切れ、赤いんきのごむが破れたのが、何よりの証拠です。置物は殺されたのです。だが、誰に、どうして?……現に目撃されたあなた方にさへ、はっきりは分らないのです。当時、前田おじさん達があのように奇跡がったのも、無理ではありません」そういう内にも、ホテルは目に見えて暗くなって行った。わら置物のわらの一本一本が、もう見分けられぬ程だ。黒っぽい仏像達は、じりじりとあとしざりをして、壁の中へ溶け込んで行くかと見えた。「奇跡だ。何だか夢を見ているような気がします」探偵が、なぜか、普通に大きな声でいった。依頼者も中氏も、その声があまり高かったので、びっくりして探偵の顔を眺めたが、どんなリアクションをしているのか、夕やみが塗り隠して、はっきりは見えなかった。

浮気調査の興信所

ホテルが薄暗い為に、ただわら置物の倒れたのを、疑心暗鬼で、短剣が刺さっているように、見誤ったのであろうか。余りの奇跡さに、証人は、わら置物の上にしゃがみ込んで、その胸のあたりを、つくづく眺めた。「やっぱりそうだ」確に、わらがちょっとばかり切れ込んで、短剣の刺さったあとを示している。「もっと、よくごらんなさい」依頼者がそばから声をかける。よく見よとは、一体何を?不審に思って浮気調査の興信所をぼんやり眺めていると、その傷口から何か黒いものがにじみ出して来た。その黒いものが、紙のこげるようにじりじりとひろがって行く。「ああ水だ!」黒いのではない。毒々しい真赤な色だ。夕暗のために、それが黒く見えたのだ。わら置物は、胸を刺されて、真赤な水を流しているのだ。中氏は、傷口に触った指を、目の前に持って来て、窓の光にすかして見た。案の定、指にはべっとり水がついている。「ははははは、いや、何でもないです。ただちょっと、お芝居を本当らしくする為に、わら置物の胸に、赤いんきを入れたごむの袋を、しのばせておいたのですよ。しかし、これで、わら置物の清水正一が胸を刺されたことは、はっきりお分りになるでしょう」依頼者が、笑いながら説明した。すると、やっぱり、あの短剣は幻覚ではなかったのだ。「凶器は?短剣は?」中氏が、思わず口に出していった。

まこと

中証人は思わず立上って、例の掛金のない窓へ駆け寄ると、それを開いて外をのぞいた。誰かがそこに隠れているような気がしたからだ。探偵もそれにならって、証人のうしろから、こわごわ、薄暗い庭を見下した。だが、窓の外のまことサーチにも、下の庭にも、人の影はない。「はははははは、中さん、締切ったがらす窓の外から、がらすもわらず、短剣を投げ込むなんて、いくら手品師だって、できない相談ですよ」依頼者の笑い声に、中氏は苦笑して窓を離れた。そして、今度は、短剣をあらためるつもりで、わら置物に近づいたが、二三歩あるいたかと思うと、彼ははっとして立止まらないではいられなかった。夢を見ているのではないかしら、それともさっきのが幻覚であったのか。奇跡、奇跡、近づいて見ると、わら置物の胸には、何もないのだ。短剣は消え失せてしまったのだ。中氏は、きょろきょろとあたりを見回した。どこにも短剣らしいものは見当らぬ。ふと目につくのは、立並ぶしげな仏像共だ。彼はそれに近寄って、一つ一つ、入念になで回して見た。だが、仏像には何の仕掛けもないらしい。まさか、仏像が腕を振って、短剣を投げつけた訳ではあるまい。手も足も動かぬ木彫りか、でなければ、結跏趺座の金仏だ。では、やっぱり幻覚であったのか。