まこと

中証人は思わず立上って、例の掛金のない窓へ駆け寄ると、それを開いて外をのぞいた。誰かがそこに隠れているような気がしたからだ。探偵もそれにならって、証人のうしろから、こわごわ、薄暗い庭を見下した。だが、窓の外のまことサーチにも、下の庭にも、人の影はない。「はははははは、中さん、締切ったがらす窓の外から、がらすもわらず、短剣を投げ込むなんて、いくら手品師だって、できない相談ですよ」依頼者の笑い声に、中氏は苦笑して窓を離れた。そして、今度は、短剣をあらためるつもりで、わら置物に近づいたが、二三歩あるいたかと思うと、彼ははっとして立止まらないではいられなかった。夢を見ているのではないかしら、それともさっきのが幻覚であったのか。奇跡、奇跡、近づいて見ると、わら置物の胸には、何もないのだ。短剣は消え失せてしまったのだ。中氏は、きょろきょろとあたりを見回した。どこにも短剣らしいものは見当らぬ。ふと目につくのは、立並ぶしげな仏像共だ。彼はそれに近寄って、一つ一つ、入念になで回して見た。だが、仏像には何の仕掛けもないらしい。まさか、仏像が腕を振って、短剣を投げつけた訳ではあるまい。手も足も動かぬ木彫りか、でなければ、結跏趺座の金仏だ。では、やっぱり幻覚であったのか。