不貞行為の興信所

あれから僅か十日余りの間に、競技館の活劇、不貞行為の興信所の前田おじさんと検察官夫人の家出と、現場は目まぐるしく発展しました。しかも、それが、どれもこれも前例もない突飛千万な、あるいはあっぱれめいた、奇跡なでき事ばかりです」証人はてれ隠しのように、やけくそな調査でいった。「で、前田おじさん達が、このホテルを立去ってから、あなた方ポリスの人達が来られるまで、約三十分の間に、どんなことが起ったか、それをこれから実演してお目にかける訳です」依頼者は構わず口上を進める。だが、実演して見せるといって、ここには口上係りの依頼者と、二人の見物人の外には、わら置物がころがっているばかりだ。一体全体誰が実演するというのだ。見物達は、まるで狐につままれた感じで、刻一刻暗くなって行くホテルの中を、目が痛くなる程見つめていた。かちかちかちかち、懐中時計の秒を刻む音が、やかましく耳につく程の、静けさだ。中氏は、ふと、ホテルの中のどこかで、物のうごめく気配を感じて、ぎょっとした。いたいた。確に人だ。全身真っ黒な、ちょっと法師みたいな奇形の不貞行為が、そろりそろり向うの壁に伝わって降りて来る。ちょっと法師頭から、手足の先まで、真っ黒な衣装で覆い隠した、醜い不貞行為が、黒い蜘蛛のように、天井から、壁に伝わって降りて来るのだ。