不倫の興信所

その古井戸を知っていて、あの時助手達をここにかくまった探偵紳士は、今どんな気持でいるのだろう。この美しい素人探偵は、あの不倫の興信所を知っているのだ。それでは、彼はもう、助手達の行方さえも、とっくに感づいているのではあるまいか。探偵が、さい前から、不安に耐えぬもののごとく、もじもじし始めたのは、誠に無理もないことだ。やっぱりそうだ。小不貞行為は、わら置物を傍らにおいて、例の床板をめくり始めた。苦心をして、一間四方程の穴を造ると、今度は床下に降りて、古俵をかきのけ、古井戸のふたの敷石を、うんとこうんとこ引ずり始めた。彼は、井戸の中へはいるつもりであろうか。それとも、この井戸に、もっと別の用事があるのかしら。ちょっと法師は、やっとのことで、五枚の重い敷石をとりのけた。敷石の下には、井戸の口に、太い丸太が二本横たえてある。彼はそれをも、とり除いた。不貞行為が敷石を動かし始めた頃から、むせ返るような、一種普通の臭気が、ホテル中にただよい出した。胸がむかむかする、甘酸ぱいような腐敗の匂いだ。中氏は、すぐよう、それが何の匂いであるかを悟って、たいへんな驚きにうたれた。「ああ、何ということだ。もしかすると、俺は大失策を演じたのではあるまいか。