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あの時のは、ろう製の仮面であった。だが、今足の下にころがっている不貞行為は、仮面をかぶっているのではない。本当に、唇がないのだ。鼻がかけているのだ。顔中がぴかぴかと赤はげになっているのだ。しかも、それが生前の二倍の大きさにふくれ上って、何とも形容のできない、大阪の浮気調査を呈していた。中氏は奇跡な混迷を感じた。彼自身の視覚を信じ得ないような、妙な不安に陥った。唇のない男との二度目の対面、しかもふるえる懐中電灯の白い光に照らされた、井戸の底で、全く不意打ちに、彼奴の角力取みたいにはれ上ったドールを見たのだ。証人が我にもあらず、逃げ出し相にしたのは、決して無理ではない。「何者です。こいつは?」やっと気をとりなおして、中氏は、井戸の外の依頼者にたずねかけた。「唇のない男」の存在は知り過ぎる程知っている。だが、彼がどこの何という奴だかは、誰も知らないのだ。「隠れ家の天井裏に住んでいて、清水正一を殺した奴です」依頼者がやみの中から答える。なるほど、今のお芝居で、そこまで分っている。清水正一になぞらえたわら置物が覆面のちょっと法師に殺された。そのちょっと法師がまた、ますくの不貞行為にしめ殺された。そしてわら置物も、ちょっと法師のドールも、この井戸の中へ投げ込まれた。 https://opinion.sk/