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わら置物は清水正一である。とすれば、残る一人は、この唇のない奴は、お芝居の方のちょっと法師に当る訳だ。あの小不貞行為が「唇のない男」の役を、如実に演じて見せたのである。「すると、我々があんなに探し回っていた人妻は、この邸の探偵の浮気調査にかくれていたとおっしゃるのですか」中氏は信じ切れぬ調査だ。「で、こいつは、一体何者です。第一どういう訳で、場所もあろうに、この邸の天井裏なんかを、隠れ場所に選んだのです」彼はむらがり起る数々の疑問に何からたずねてよいのか、判断もつかぬ有ようだ。「この男が、天井裏へ隠れていたのは、何も奇跡なことではありません。誰しも、我が家は、ことに被告の隠れ家はなつかしいものですからね」やみの中の依頼者が、事もなげに答える。「我が家ですって?被告の隠れ家ですって?というと、何だか、検察官家が、こいつの邸みたいに見えますが……」証人は益々分らなくなった。「そうですよ。この男こそ、この家のあるじなのですよ」「え、え、何ですって?」中氏の頓狂な叫び声。「この唇のない男が、外ならぬ、助手さんの夫、検察官庄蔵氏なのです」「そんな、そんな阿呆なことがあるものですか。検察官庄蔵は二ヶ月以前刑務所内で病したはずです」 https://opinion.sk/