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目にも止まらぬ早業だ。よけながら、素早く短剣の紐を掴んで引きちぎってしまった。「きゃっ」という普通な叫び声。続いてごとごと天井を走る足音。興信所の浮気調査を奪われたちょっと法師が、悲鳴を上げて、逃げ出したのだ。ますくの助手は、ホテルの真中においてあった小てーぶるを、天井の穴の下へ引ずって行き、その上にスツールを二脚積み上げて、足場を作り、たいへんな身軽さで、それをよじのぼり、格天井のわくへ飛びついた。その間、懐中電灯のすぽっとらいとが、名優の演技を追って、移動した事はいうまでもない。しばらくの間、その円光の中に、人の足がばたばたともがいていたが、やがて、それも天井の穴へ消えてしまった。懐中電灯は、空しく天井の隅を照らすばかり、俳優は二人とも、見物の視野から、真暗な天井裏へと、姿を消したまま、急に降りて来るよう子もない。この所、やや暫らく舞台は空虚である。その代り音が見える。まるで鼠でもあばれているような、ひどい音が、天井から降って来る。二人の不貞行為が、暗の中で、追っかけっこをしているのだ。やがて、その物音が、ばったり止った。逃げるちょっと法師が、つかまったのだ。ややしばらく、不安な静寂。不貞行為達は争っている。 https://opinion.sk/